「テクノロジーとクリエイティブのちからでマーケティング課題を解決」を掲げ、2014年にGoogleを退社し起業。国内最大規模のブランディング・マーケットプレイス「*Moments by FIVE」やモバイル特化動画ネットワーク「Video Network by FIVE」を運営し、2017年にはLINEからM&Aを受け、スマートフォン動画広告プラットフォーム事業で急成長と遂げているファイブ株式会社代表取締役CEO 菅野 圭介さん。

今回は菅野さんにインタビューを行い、全2回に渡って創業準備のプロセスから起業後の実体験などを紐解いていきます。大手企業・事業会社からの起業を検討している方にとって参考になれば幸いです。

第1回では、Google時代の仕事内容や起業を決意したきっかけをお聞きしました。

ファイブ株式会社 代表取締役CEO 菅野 圭介

2008年に Google Japan に新卒一期として入社。買収後のAdMob の日本オペレーションの立ち上げ、プロダクトマーケティングマネジャーとしてYouTube 広告製品等のマーケティング・収益化・映像クリエイティブエコシステムの拡大を担当。2014年に FIVE を設立。

広告に革命が起きていた時代

——Googleではどのような仕事をしていましたか?

菅野:Googleには2008年に新卒で入社しました。Googleの日本法人で新卒の採用が始まったばかりの年で、GoogleのホームページのAbout Usで知りました。彼らは、マイナビやリクナビで新卒採用活動を一切していなかったんですね。なので、Googleが新卒採用を始めている事をそこまで実は学生は知らず、当時はまだ競争率が低いタイミングでしたね(笑)。結果的に本当にGoogleに興味のある人が集まっていた印象です。

当時、Googleのリスティング広告は広告業界に革命を起こしていました。当時のGmailはプライベートβ版として容量無制限でリリースされ世界に驚きを与え、そんなGmailにアドセンス広告が出てくるなど、広告テクノロジーがどんどん大きくなっていることを肌で感じていました。更に、GoogleがDouble Clickを2007年に買収したり、当時のアドテクノロジーはすごく活発な時期でした。

Googleでの仕事として、最初に僕はアドワーズ広告の営業チームに入り、その後、2010年頃にAdMobのチームに移りました。GoogleがAdMobを買収し、アンドロイドが伸び、スマホの成長がコンセンサスになっていた時代で、その時のアドネットワーク最大手がAdMobでした。

GoogleがAdMobを買収し、PMIとしてGoogle側がAdMobのオペレーションを立ち上げる時期で、面白いと感じて手を挙げてAdMobの仕事をしていました。当時は年率1,000%とかすごい勢いで伸びていました。そして、GoogleとAdMobのプロダクトのマイグレーションが一通り終わった後に、YouTubeのプロダクトマーケティングに移りました。

YouTubeでは、TrueViewや動画広告の担当をしました。ざっくりと、これがGoogle時代でのキャリアです。Googleの社内異動は基本自由で、流動性がありました。メンバーが自発的に異動できる分、マネージャーはいいチームを作らないと人がどんどんいなくなるというプレッシャーがあったと思います(笑)。

「情報としての広告」と「コンテンツとしての広告」

——社内でのキャリアで意識していたことはありましたか?

菅野:僕は、学生時代から広告・マーケティングを身近に感じていました。その理由は、父親が映画会社のマーケターとして働き、家族の生計を支えていたんですね。なので、学生の時に自分なりに広告というものを考えていて、自分なりの真実を見つけていました。

その真実とは、インターネットにより情報流通量が加速度的に増えるなかで、企業の情報=広告が生き残るためには、「情報としての精度が高い広告」になるか、「コンテンツとして価値が高い広告」になるかという事です。

「情報としての広告」については、サーチ(検索)がレレバンシー(関連性)で革命を起こしていました。広義でのアドテクノロジーがそれに近い分野で、プログラマティック、ターゲティング技術などが含まれます。

後者のコンテンツとしての広告については、前者とは世界観が違うと思っていました。GoogleがYouTubeを買収した時に感じたのは、動画のフォーマットは情報量が多いためコンテンツとしての価値が作りやすいんですよね。

テレビCMはまさにそれで、コンテンツとしての価値をもたせやすい。Googleが得意とする、ユーザーが興味のある情報を提供する、レレバンシー(関連性)型の広告とまた違った感じがあるじゃないですか。GoogleがYouTubeを買収して、そこを抑えにかかっていたのはすごいなと思いました。

そういった背景から、Googleが伸びるためには大事なプロダクトだと感じていた、コンテンツ型のYouTubeに興味がありました。左脳の世界でのサーチ(検索)のアルゴリズムや、効率よく大量にキーワードを処理できるか、というマーケティングの世界に関わっていたので、右脳の世界であるYouTubeでの経験を通じて、両方の世界を見ておきたいと思ったんです。

テクノロジーでマーケットを変えたい

——起業はもともとしようと考えていましたか?

菅野:学生の時から、ディー・エヌ・エーの南場さんの講演を聞きに行ったりなど、起業は考えていました。ただ、当時は「これだ」というアイデアもなかった。ビジネスプランコンテストにも参加しましたが、実際の起業には繋がらないと感じましたし、正直なところ、当時は起業する度胸がなかったということもありました。

また、当時のベンチャーブームを見ている中で、プロダクトドリブンではないというか、テクノロジーでマーケットを変えるような会社が少ないように見えたんです。そういう中でGoogleはマジで世界丸ごとを変えていく会社なんだと悟り、Googleに就職しました。

Googleでは最初は仕事を覚えるのに精一杯で、まあ平凡で素直な新卒社員でした。ファウンダーから全社員に送られてくるEメールを一生懸命読む、とか。世界を丸ごと俯瞰する視座が本当に高くて、そういうことに触れるだけでワクワクしましたし、すげーって思いながら素直に吸収をしていました。

「モバイル×動画」の時代が到来

——起業を決意した、明確なきっかけはありましたか?

菅野:「モバイル×動画」が来る時期で、自分がやってきたことがAdMob(モバイル)とYouTube(動画)なので、組み合わせると自然に起業のタイミング、という感じだったんですよね。

実は、前哨戦じゃないですけど、AdMobの時も動画広告のプロダクトにチャレンジしてたのです。しかし当時の通信機器は3G端末で、スマホの端末数も二千万台くらい。映像の処理速度が遅く、広告制作コストも高い。スケールせずに失敗しました。

その後、やっぱり動画に興味があって、2013年にYouTubeのプロダクトマーケティングに携わりました。いろいろな数字を見ていると、トラフィックはモバイルがPCをすでに超えていたんですよ。それにもかわらず動画のエンゲージメントはモバイルの方が圧倒的に低いわけです。リニアに同じことをやっていてはいけないはずで、逆にこれはチャンスだと思いました。

——環境の変化が、起業を後押ししたんですね。

菅野:創業した2014年頃は、Facebook、メッセンジャー、アグリゲーション型のニュースメディアと、スマートフォンで、いわゆるソーシャルゲーム以外のメディア環境とアプリエコノミーができつつあると感じる事が多くなりました。

Facebookは動画のユーザー投稿をやっと始めたくらいの時期でしたが、今後、Facebookが自社のフィードがサチュレート(飽和)してきたら、成長戦略としてGoogle のようにサードパーティアプリを束ねるようなことは予測ができたんです。

「モバイル×動画」の広告ビジネスが回り始める予感がする中で、一方のGoogle/AdMobはまだ静止画に注力していましたし、一番早く動画の領域をとるということに、スタートアップとしても事業機会があると思いました。

動画が間違いなく大きな波と感じていたなか、デバイスは6千万台になる、また、巨大プラットフォームであるYouTubeもFacebookもスマホの画面では一つのアプリなので、他のアプリでも動画広告のニーズもできるはず、と、ほとんど条件が組み合わさってきているなと感じていました。マーケット選定やタイミングは過去のGoogleでの経験から学べたのが大きかったですね。