「ものづくりの民主化」をビジョンに、2013年に博報堂から起業。オンデマンド製造サービス「Kabuku Connect」や3Dプリントプロダクトマーケットプレイス「Rinkak」を運営し、創業4年で大手老舗メーカーからのM&Aを受け、ビジョンの更なる実現に向け邁進をしている株式会社カブク代表取締役CEO 稲田 雅彦さん。

今回は稲田さんにインタビューを行い、全3回に渡って創業準備のプロセスから起業後の実体験などを紐解いていきます。大手企業・事業会社からの起業を検討している方にとって参考になれば幸いです。

第2回では、起業を決意した後の準備期間についてお聞きしました。

本格的な起業準備は6ヶ月、3ヶ月かけて退職調整

——大枠の事業プランを考えてから退職まではどれくらいの期間があったのでしょうか?

稲田:退職の1年前くらいから徐々に事業アイデアを磨いていき、本格的に準備したのは退職の6か月前くらい。3ヶ月前には会社に「起業します」と退職する旨を伝えました。前もって周りに起業するとは伝えてはいませんでしたが、それまでの仕事ぶりを通じて、まあそうでしょというような雰囲気はあったようで、応援してもらえました。多少退職時に揉めても事業としては問題ないのかもしれませんが、基本的に辞めるときは、立つ鳥跡を濁さず、円満に退職するのが社会人、ビジネスプロフェッショナルとしてはあるべき姿だと思います。起業にあたり会社と揉めていた方々もいたので、これは真摯に調整をしようと考えていました。

プロジェクトに巻き込んでメンバーを集める

——メンバーはどのように集めたのでしょうか?

稲田:アイデア探しや検討の段階で、多様なメンバーとディスカッションしていました。こうしたアイデア出しをすることは広告、クリエイティブ業界では普通のことでした。事業アイデアがより固まってきてからは、プロジェクトベースでメンバーを巻き込み、会社の繋がりや社外の仲間、勉強会やイベントに参加しながらメンバーを探していきました。

——メンバー選びの考え方は?

稲田:ビジョンへの共感と、プロジェクトを実際回してみて実務としても一緒にやっていけるかを見極めていきました。これはやってみてすごく良かったことです。数ヶ月一緒にプロジェクトを回してやれば、実際のところいけそうか、合うのか合わないのかが大体わかってくるので、その過程で事業やプロジェクトに合う人を巻き込んでいきました。

起業前に事業、資金調達の目処を立てる

——資金調達に関してはどのように計画しましたか?

 稲田:起業前にエンジェルの方々などに会ってヒアリングをし、資金調達に関連する論点を出して、最低限の知識・ノウハウを勉強していました。退職のタイミングでは、自己資金で12ヶ月はもつ状態をつくり、その後の資金調達ラウンドへと動いて行きました。

退職してからスタートアップファイナンスを一から勉強してたら時間もかかるし、事業のアイデア出しを一からやっていたら時間がかかって、どんどん資金を食い潰してしまいます。退職前からある程度準備をしていたことで会社設立後、比較的スムーズに事業開発も資金調達も進みました。

後戻りできないから資本政策は気をつけるべき

 ——資本政策に関してはどのように勉強しましたか?

 稲田:起業家の先輩の方々から大枠の重要な論点などのヒアリングをし、概要を把握しつつ、「起業のファイナンス」をはじめ、有名どころのスタートアップファイナンスの本も大体読みました。今だと、英語ですが「Venture Deals」もおすすめです。

広告、クリエイティブ業界の人間は概してファイナンスが弱い傾向があり、ちゃんとやっておいてよかったです。起業家、投資家からは強く言われますし、自分自身も強く言いたいですが、この世界では当たり前のことですが、資本政策は後戻りできないから気をつけるべきです。ここで失敗すると、投資家も投資できなくなるし、後々株主に迷惑がかかるし、自分たちも幸せになれません。